あくの猫  ⇔          


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暑かったから窓を開けた。
だがそれは逆効果だった。外は雨上がりで部屋には風ではなく湿気が満ちたのだ 。これは閉めた方がいいかとため息をついた瞬間、耳にやさしい柄の悪い声が聞 こえた。


「おい閉めとけよアレルヤぁ。」
「うん、僕もそう思った…。」
「しゃーねーだろ、アナログでいこうぜア・ナ・ロ・グ」


そう言ってだらしなく座ったまま弟が差し出したのは、うちわだった。
この弟君は、どうもこういったものがお好きらしい。と云うのも、誰より文明の 最新技術を使いこなすのに長けているのに(ニール兄さんと同じレベルでその手 の会話ができるのだから相当だ)、何かにつけ一歩か二歩うしろの、手間のかか る手段を好んで選ぶ。僕だってアナログが嫌なわけじゃない。ただ彼ほど積極的 にそちらを選ばないというだけで。
双子とは、こういった下らないところにばかり違いが出るものなのだろうか。


「じゃ、ヨロシクぅ〜。」
「って僕に扇がせるの?」
「まーそう言うなって。頼むよオニイチャン。俺様もー暑くって死にそう。」
「……ハレルヤ。」
「な、おねがぁい。」
「…じゃそのアイス半分。」
「ひっでぇ!」


ぎゃんぎゃん喚くハレルヤに肩をがっくりさせながら、結局は彼の言うように風 を送ってやる僕はやっぱり兄馬鹿なんだろうか。


「そんな言葉はねーよオニイチャン。」
「あっそ!」


この共鳴能力が、僕らには不便ではなかった。干渉すべきところと、そうでない ところくらいはお互い解っていたから。それにいつもいつでも『共鳴』が起こる わけでもなかった。同じ双子でも、ニール兄さんとライルにはコンナコト無いら しいから不思議だった。

いつだったか、ニール兄さんに訊いたことがあった。相手の考えてることが分か らないって、怖くないのかと。一瞬きょとんとした後、分かった方が怖いと笑っ ていた。あいつの考えなんてロクなもんじゃねぇから、知らぬがなんとやらだ、 と。


ハレルヤだってたいてい物騒なことしか考えていない。だけど。
ニール兄さんの言葉は、僕には理解できなかった。


「…涼しい?」
「まだー。あと腹減った。」
「知らないよ!って言うか、それは僕よりハレルヤの担当だろ!」
「にッぶいなー!アレルヤの作ったもんがイイっつってんじゃん?」
「ヤだよそんなの。どーせまた文句つけるんだもん。」
「これも愛だってアイ。」
「あーはいはい。」


気がつけば何故か自分がパタパタと扇がれている。まるで僕の機嫌を取り繕うみ たいに。いつの間にうちわを奪われたんだ、僕は。
案の定、機嫌直せよ〜などと言いながら顔をのぞき込んでくるハレルヤは、あぐ らを掻いたまま上半身だけこちらにダラリと伸ばしている。とても楽しそうにタ チの悪い笑みを浮かべていた。


「ハレルヤ、最近ライルに似てきたよ。」
「そうかぁ?どのへんが。」
「なんか…そーゆートコがだよ。」
「わかんね。そーいやお前さ、なんで兄貴には『兄さん』て付けねーの?」


ハレルヤの言う兄貴とはつまり僕の言うライルである。


「なんでって…なんかそんなんじゃないから。昔っからライルにかまわれて…ロ クなこと無かったし。」
「なんで。兄貴楽しーじゃんよ。ニールこそ兄さんって柄かよ。」
「何言ってんの!ニールの方がよっぽど兄さんだよ。ティエリアと刹那の面倒だ っていつも兄さんが…」
「あーそりゃ、まあ…なぁ。あれだろ、適材適所。」
「はあ?」


うーん、と伸びを一つしてハレルヤは「ほい。」と僕の口に食べかけのアイスを 突っ込む。ああ、またはぐらかされた。仕方なしに、ちょっと憮然としてみせて ソーダ味を噛む。その様子を満足げにじぃっと見つめるハレルヤは、いつも猫み たいだと思う。


「じゃ、何かつまむモン作ってくれな。」
「なんでそーなるんだよ!」
「アイスやったろ。」
「それは扇いでやるって話じゃないか。」
「よし、じゃーもうしばらく俺様に快適な風を送って。」
「……もうちょっと可愛く甘えられないのかな。」
「あ?何か言ったかオニイチャン。」
「なぁんにも。」


窓は閉めておいて正解だった。
このヒネクレた猫は自分を困らせるためにそこから逃げ出しかねない。
だって僕ならそうしたくなるから。





初夏、午前11時27分の僕ら。








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2008.5.25. 秋津

長男→ニール、ライル
次男→アレルヤ、ハレルヤ
三男→ティエ
末っ子→俺がガンダム

…とゆー超絶不毛な家族パロ。
とりあえず細かい設定を忘れないように書いてみたってだけなので…ゆ、許せ…