君が憎いよ。
たった一人僕を負かす君が。
君を殺してやれたらきっとどんなセックスより気持いいだろうね。
でもね。
それと同じだけ君が愛しい。
たった一人僕を愛す君が。
無音の世界でただ君と在れたらきっとどんな眠りより心地好いだろうね。
骸。
ああ骸。
こんな僕の望みを正しく叶えられるのは君だけなんだ。きっと君ならわかってく
れるね。
そうして僕らが永遠になる。
***
春の日。
骸はいつものようにその桜の下にいました。
もう他に人はなく、ただただ彼と、誰も知らない桜と、風が吹くだけです。
「ねぇ雲雀さん…僕は、貴方の桜はこの世で一番綺麗な紅に染まると思っていた
んです」
やさしい風は白い花びらを穏やかに揺らす。
「なのに、貴方の桜はこんな見事に白くなりました。真っ白ですよ?僕には、そ
れが不思議でならなかった…」
仄かなかおりが骸の目を細めさせる。なんて穏やかな笑み。
でも、と彼は続ける。
「でも、分かりましたよ。ようやくわかりました。今朝ね、急に思い至ったんで
す。おかしいですよねぇ」
ざあと一際強く風が走った。
風は骸の群青を散らし白を散らし、遠く去るは常世まで。あのなつかしい隠世。
「あの日見た貴方の血は確かに、それは美しい紅でしたけれど、」
風に向かい顔を仰ぐ骸は、とても幸せそうに笑います。永い永い今までで、一番
しあわせそうに笑うのです。
「貴方の肌はそれより綺麗な――白、でしたものね…」
ねぇ、雲雀さん――
(いきましょう)
それきり彼は話すのを止め、愛しい桜に寄り添って、胸にはあのナイフを大切に抱いて
、静かにしずかに微笑んでいました。
そうして僕らは永遠になる。
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