あくの猫  ⇔          


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いい気になっている君が許せない。
もっと上にもっと高みを、そうせめて――




‖ バイオレント・フィロソファー ‖


ああ気色が悪い。

六道骸の雲雀恭弥に対する第一印象は最悪だった。写真などで見た分には、綺麗 な顔だなくらいにしか思わなかったのだがやはり実際に会うと違うものだ。
いや、容姿に文句はないが何よりもその在り方が気に食わなかった。

(何が秩序だ)

たかだか15やそこらの餓鬼が何を勘違いしているのか。確かに腕は立つのだろう し度胸もある。精神的にもなかなか骨のある人間のように思う。だがしかしそこ が最大にして致命的な弱味に通じるということを、骸は見抜いていた。

雲雀は負けを知らない。
更に悪い事には、そのことをすら知らない。自覚がないのだ。それで骸に勝つと 言うのだから無理な話だ。十しか知らない者が二十知る者を越えられるはずはな い。

せめて知らないということを知っていたなら、あるいは骸もこんな嫌悪を感じる ことはなかっただろう。

(知の無知、とでもいったところか)

己の驕りを知らずに生きるなんて、なんと哀れで、惨めな、

(ん?)
(哀れで、)
(惨め…)
(か?)

嘲笑を浮かべようとして浮かんだのは疑問だった。
何が引っ掛かる?その通りではないか。そんな生き方はむしろ悪趣味である。 ならばおかしいのはこの持論ではなく、雲雀恭弥そのものだ。正しく言うならば 、おかしいのはそれを雲雀に当てはめる行為と骸が雲雀に下している評価である 。

(もっとよく考えろ)
(なにか、)
(何かあるはずだ)

…確かに、自分の感情は同族嫌悪的な感がある。多少幼いとはいえ、天上天下唯 我独尊を地で往く姿は骸自身と重なる。

(おや?)

では自分は彼と似ているのだろうか。はっきり認識していなかっただけで実はそ うなのか。
ならばつまり、無知な雲雀が骸に苛立ちを覚えさせるのはその卑小さそのもので はなく、そこに甘んじている彼の――

「…は!意味が分かりませんね」
「ぐッ…!……?」

その先は未知の領域だと思考が思考を停止させる。煮えきらないのがまた苛つい て足元で転がっている雲雀の脇を蹴りあげた。こちらを睨みながらも怪訝そうな 顔をする雲雀を無視してまた同じように二度三度と足蹴にする。
そうしているうちに段々と、何か我慢のならない衝動が胃の腑からせり上がってくる。
なんだ、なんだなんだこの、

(高揚苛立ち快感焦燥)

この感情は――?

そして口を突いて出たのは。


「君はそこにいるべき人間じゃないでしょう…!」


ああ。
だから理性は考えることをやめさせたのに。それ以上に強い好奇心だの知識欲だ のが命令を無視して骸の未開の感情を暴いてしまった。
本人がその感情の名前を知らないのがまだ救いだろうか。

(そうだ)
(許せない)

そんな低い場所でいい気になっている君が許せない。もっと上にもっと高みを、 そうせめて僕のいる場所にまでは来てくださいよ雲雀恭弥!

解ったわかったようやく合点がいきました。感情の名前など何でも良い。その本 質が解れば良い。

「名前を差し上げましょう…雲雀恭弥、僕の名前を」
「…いらない」
「六道骸と申します。クフフ…よろしく?雲雀さん」

最高の笑みを添えて囁く。
君だ。

(そう)
(僕の「唯一」)

堪らなく甘い感覚に煽られるようにしてまた一際強く蹴りあげた。











君へ。
はやくそこを乗り越えて来てください。
僕が与えるすべてを糧にして。









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Violent Philosopher(なんて身勝手な哲学)