‖ 好かや ‖
あの子、ずるいね。
「凪ですか?なぜ?」
君があの子にむける愛情は、僕がどうあがいたって得られない。
「でも君は他の誰にも得ることの出来ない類の愛情を得ていますよ?」
何言ってるの?君の全ては、全ての君は僕のものでしょ?なのに僕が得られない
君があるのはおかしい。
「雲雀さん」
君には彼らがいるのに僕には君だけなんて、ああそうか、ずるいのは、ずるいの
は君なんだ。
「雲雀さん、」
やめて呼ばないで。
「きょうや」
その声で呼ばないで!
***
蝉がけたたましく鳴いている。変なことを考えていたら変な夢を見てしまった。30
分ほどうとうとしていたようだ。外はもう薄暗い。
「おはようございます」
「いつからいたの」
「つい先程」
寝起きで声がかすれる。変わらぬ骸の端正な笑みを見ていたら何故だか無性に泣
きたくなった。
「きみ、ずるいよね」
「は?」
「さいてい」
「雲雀さん…まだ寝てるでしょ」
こちらのソファまできて頬を撫でてくる。
彼の指。肌が焼けるかと思う。 だから触れられたくない。
「起きてる」
「嘘」
かがみ込んで目を合わせてくる。
彼の目。脳内まで侵食されるかと思う。
だから見られたくない。
「…帰りましょうか」
「どこに」
「君の家」
ああ彼の声も笑みも動きも全部全部ぜんぶ僕のものならこんな軋みを知らずにす
むのに。
「何それ」
「泊まってあげますよ」
「いらないよ」
「寂しいくせに」
「なっ…」
「僕だって分かりますよ」
分からないよわかってないよ君は全然なんにもわかってない。だってそうでなき
ゃ本当に、本当に僕だけが――。
「癖なんですよね、これ」
「何…?」
「袖。掴むの」
「は?」
言われて視線を移せば、雲雀の指先は確かに骸の袖を掴んでいた。控え目にキュ
ッと。
すぐに放して顔を背けるが骸は堪えるみたいに笑い続けていて、悔しいので頭の
ヘタを思い切り引っ張ってやった。
「いだだだだ」
「自業自得でしょ」
「ずるくて最低?」
「自覚あるんだ」
「いえ、でも」
ぐい、と首を捻り雲雀の頬にキスをする。不意をつかれて反応できない雲雀は、
とにかく何か言ってやろうと口を閉じたり開いたりするばかりだ。その様子が骸
には可愛くて仕方ないのだが。
「何とでも仰ればいい…結局僕には貴方しか残らないので、放してやる気はあり
ませんし」
「…やっぱり最低だね」
「どうも」
今度こそ、本当に泣きそうになった。
(情けない)
そうして二人、並んで帰るのだ。夕暮れに染まる道を、しずかな声や嫌な夢など
を少しだけ連れて歩く。
(じゃあ)
(最期には、)
(僕と君だけ)
(なら良いか…)
だがしかしあまりに女々しい思考に吐き気がしたので仕方なく骸のヘタを引っ張ってやった
。
-------------------------- なんか最近ウチの骸は男前だ。ありえね。←ひど
…袖つかむのって超可愛くないですか?(言いたいことはそれだけか
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